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【雑】「眠れる森の美女」のハッピーエンドについて

あおばです、こんばんは。

 

ディズニーが成し遂げた偉業の一つが、「王子様がお姫様を救い出し、末永く幸せに暮らしました」というハッピーエンドのパターンを世界中に叩き込んだことであろう。童話をもとにしたディズニー長編アニメ映画の中で、王子様が姫を救い出すために戦うという型を与えられた最初の作品が「眠れる森の美女」である。悪い魔女に呪われた姫を助け出すため、恐ろしいドラゴンに立ち向かう勇敢な王子。しかし、原作であろうグリム版の「いばら姫」には、恐ろしいドラゴンは出てこない。王子も特に戦わない。

 

ディズニーが提案したハッピーエンドを理解するため、また、ツイステットワンダーランドの「本当のハッピーエンド」について考察する準備のため、今回は「眠れる森の美女」の物語を確認しておきたい。

 

「眠れる森の美女」を、ここでは  ①姫が亜麻の棘を契機に長い眠りにつき ②眠りから覚ました王子と結婚する という2要件を満たすものとする。由来は諸説あるものの、ゲルマンの神話から抽出されてフランスの民話になり、再度ドイツに輸入されたものと考えられているらしい。その過程の様々なタイミングで、様々な地域から収集された版が存在しており、複数のパターンとして伝えられる。

さて、ディズニーが原案としたのはペロー版ないしグリム版と思われる。ここで、バジレ(17世紀前半)、ペロー(17世紀後半)、グリム(19世紀前半)、ディズニーの4つの物語について、大まかな差異を表にまとめた。 

 

 

バジレ版

ペロー版

グリム版

ディズニー版

編者の地域

イタリア

フランス

ドイツ

アメリ

姫の名前

ターリア

不明

不明

オーロラ

”魔女”は総勢

0人

8人

13人

4名

他に眠るのは

0?記述なし

家来全員

王・王妃を含む全員

王子は

既婚

独身

ドラゴンは

出てこない

出てくる

目覚めは

後日、授乳中

時限

王子のキス

姫の妊娠は

寝ている間

起きたあと

-

-

子どもは

男女の双子

姉と弟

-

-

“肉”は

王子に食わせる

妃が食べる

-

-

妃は最後

自害

王子が殺害

-

-

 

さて、目覚めたあと、バジレ版とペロー版には続きがある。グリム版とディズニー版ではカットされている部分である。大まかにいうと、王子の先妻ないし母が人肉を食らう魔女である。姫は子を産むが、先妻ないし母は、姫と子どもたちを殺して食用に供そうとする。家来の機転で姫らは命拾いし、悪事を暴かれた先妻ないし母は亡ぶ。姫と子は、王子とともに幸せに暮らす。白雪姫とよく似たモチーフである。

 

さて、この「続き」を含むバジレ版・ペロー版では、姫が子を産む。姉と弟の名前には2版に共通点があり、バジレ版では「ルナ(月)とソーレ(太陽)」、ペロー版では「オーロール(暁)とジュール(太陽)」となっている。オーロールはAurore、フランス語では北極圏のオーロラも、暁も、両方Auroreである。この点で、姫にオーロラの名を付けたディズニーは、ペロー版を踏まえているのかもしれない。

 

ペロー版の特徴は、王子が妙にかわいいことである。王子が姫の元に到着したちょうどその時、眠りに落ちてから100年の時が経過して、姫は目を覚ます。そして素晴らしく微笑みかける。一目ぼれした王子は舞い上がって、しどろもどろに愛を誓う。城中の使用人全員が姫と同時に目覚めたため、王子は手厚い歓待を受け、その日の晩に結婚式を挙げ、ロマンティックな初夜を迎える。

わざわざ「しどろもどろ」と書かれているあたりに可愛げがあるが、問題はこの王子の母である。後半は、ママに隠れて身分不相応な妻を娶ったら、怒ったママが嫁と孫を食おうとする話なのである。これもこれで結構ヤバい。

 

バジレ版の特徴は、王子がクズであることと、とにかく姫が全然起きないことである。王子(既婚)は狩りの途中、たまたま眠っている姫を見出し、美しいので強姦し、帰宅。この事態でもうクズ限界突破であるが、姫は9か月後に寝たまま出産、妖精の介助を受けながら子育てする。ある日、寝たまま授乳中、双子の片割れが乳にたどり着けず母の指を吸い、指に刺さっていた麻のトゲを吸い出す。ここでようやく目を覚ました姫は、「目が覚めたらなぜか城には自分一人で、知らない子どもが2人おり、目に見えない誰かが世話をしてくれている」という状況に戸惑う。その後しばらくして、姫のすばらしさを思い出した王子が城を再訪し(クズの上塗り)、双方が事態を把握。王子は喜んで「今度迎えに来る」と宣言して、再度帰宅する。この隙に本妻である妃が、姫に刺客を送ってくるという展開。大丈夫かこの王子。こいつについて行ってハッピーエンドが見られるとは到底思えないのだが。 

 

それを踏まえてディズニー版を振り返ってみよう。王子を取り巻くヤバみはそぎ落とされ、たどたどしさも消されている。愛のために戦う騎士としての地位が与えられ、強くりりしく、洗練されて美しい。ペロー版とグリム版のロマンティックな演出が抜き出され、統合されている。

この型の物語を世界に広めたディズニーの功績は大きい。これを踏まえたツイステットワンダーランドにおいて、「本当のハッピーエンド」として何が提示されるのか、今からとても楽しみである。

 

(あおば)