百獣レディーファースト! ―夕焼けの草原はどこか?―
ケイトによると、レオナの地元は「レディーファーストな社会というか、女性をすごく敬う文化がある」(ケイト・制服)。ラギーによれば「夕焼けの草原の女性は腕っぷしも強め」で「王宮の近衛兵も半分以上が女性」、「現場の訓練を見るたび、オレも、「女性には絶対に歯向かわないでおこう」って思う」(レオナ・式典服)とのこと。これが何を意味するのだろうか。
【① 平和な国であるor近衛兵が戦闘行為を行っていない】
女性の近衛兵というのは、さほど珍しくない。カナダやスウェーデン王室も女性を採用している。ただし、女性の戦闘員は稀である。女性兵士に対して戦闘任務を解放している軍隊を有する国は、世界でも圧倒的に少数である。
【② 女性がガチで強い(物理)】
女性が白兵戦に参加できない理由として、体格や体力そのものの性差を除くと、捕虜になった場合の安全確保の困難、負傷時に同じ隊の兵士が動揺すること、隊の中での性的暴行の横行、などが問題であるとされる。これらは全て、オスのほうがメスより2割ほど体が大きく力も強い、というヒトの生物学的特性に由来するのではないだろうか。もし、何らかの理由(夕焼け平原の大多数を占める獣人たちの体質の違いなど)で、女性が物理的に、男性と同等以上に屈強であるとしたら、前述の問題は解消される(そもそも発生しない)と想像される。
【③ 深刻な人手不足】
戦争を頻回に繰り返していたり、捕虜や奴隷として男手を失った集団は、やむなく女性兵士を前線に投入せざるを得ない場合がある。
19世紀に記録されている西アフリカ「ダホメー王国」の女性軍などは、王宮の護衛軍を女性が務めていたこと、奴隷として男性が多く略取されたことなどの影響から成立したと考えられている。このような場合、女性が男性からの支配を受けているような背景があれば特に、そこからの脱出を求めて従軍する女性兵士が増える。兵士として自立し、収入を得れば、”産む機械”扱いを免れられる、ということである。つまり、「女性が強いから」女性兵士を多く登用する可能性と、「女性が弱いからむしろ」女性兵士に志願するものが増える可能性の2方向が考えられるのである。
「女性をすごく敬う」「腕っぷしも強め」という表現が現実を適切に反映したものであれば、「女性が強いから女性兵士が多く登用されている」と理解することが適切であるであろう。
ここで、考えたいのは、
夕焼けの草原のモデルとなった国/地域はどこか?
ということである。
「サバナクロー寮」にはジャックなど夕焼け草原以外の出身者もいる。具体的に登場してはいないが、エペルがサバナクロー寮を希望していたことから、ヒトの寮生もいるものと考えられる。ゆえに、サバナクロー=夕焼けの草原ではない。だが、ここではまずサバナクローを考察の起点としたい。
語源は、その綴りから「サバンナ」+「爪」であろう。サバンナは熱帯の草原地帯を指す。もとはアフリカ中央の草原隊を呼んだ語であるが、南米にも同様の草原地帯が存在する。
ここから、まず、アフリカまたは南米のサバナ的草原地帯であると目星を付ける。ライオンもハイエナもいるんだからもうアフリカでええやん...という気もするが、一応確認しておこう。
南米は、主にスペインとポルトガルの植民地にされ、原住民の激減を受けて黒人奴隷が大量に流入した地域である。現地人のほかに、植民地時代の本国の人間、連れてこられた奴隷をルーツとする人々が多く住んでおり、現在では混血も進んでいる。
アフリカは、イギリス・フランス・ポルトガルを中心に植民地化の勧められた地域である。西アフリカを中心にフランスの植民地となっている。
さて、ここで、サバナクロー寮以外の「夕焼けの草原」出身者のことを思い出していただきたい。怪しげなフランス語を操る狩人、ルーク先輩である。ただの酔狂でフランス語を話している可能性もあるが、というかその可能性が高そうだが、もしかすると夕焼けの草原では”フランス語”が通じる可能性がある。
世界のフランス語圏を確認してみよう。ヨーロッパのほか、北米とアフリカ大陸の西側に広がっている。南米には、北東部に仏領のギアナという県があるが、ここは降水量が多く熱帯雨林であって、サバンナではない。サバンナで、かつ、フランス語圏であるのは、西アフリカのエリアである。
このことから私は、夕焼けの草原のモデルとして、ギニアやニジェールなどの西アフリカの国々を挙げたいと思う。
ちなみに、前掲の女性軍を有したダホメー王国は、フランスに征服された後に共和国として独立し、現在のベナン共和国となっている。ベナン共和国の公用語はフランス語である。
2020.11.1追記
カリムのスケアリードレスのストーリーで、ルークが「狼たちとは夕焼けの草原でよく戯れていた」と話している。
一般に、アフリカに「オオカミっぽいオオカミ」は生息していないが、近年までジャッカルに分類されていたCanis anthus(ゴールデンウルフないしキンイロオオカミ)が、やはり西アフリカからエジプトにわたって生息している。このことから、「西アフリカ」という仮説が支持される。
それにしても、ロア・ドゥールに金色の狼とはなかなか良い取り合わせではないだろうか。
(あおば)